ヒダマルのラノベ講座。

ヒダマルが考える、ライトノベルの作り方。来たれ小説書き。

『アーバン・スイーパーズ』へのアドバイス。

 

「小説家になろう」にて公開中の、作者:真城悠『アーバン・スイーパーズ』へ送ったアドバイス内容です。

 小説はこちらです。

https://ncode.syosetu.com/n2316co/

 

 視点人物に語りかける形式で進む、変わり種な小説です。

 いじめっ子や痴漢など、野放しになっている犯罪者たちへ制裁を与えて社会を浄化する、裏組織の活動を伝えてきます。

 

 

〇キャラクターについて

 主人公(視点人物)への言及が一切なく、伝聞形式のみで進む小説は新しいと思います。

 灰汁山蜘蛛男、国蓮皇帝、凛慕機関銃と、名前の個性が弾けている点は好き嫌いが別れそうですが、個人的には好きです。他のキャラも「名は体を表す」といった仕掛けがあると良かったと思いますが、藤吉有明のみだったのはやや残念でした。ただ、前者のような名称ばかりだとくどいため、このままでも問題ないと言えばないとも感じます。

 

 個性的な女性キャラが入れ替わり立ち代わり登場する、という点は、ラノベ的に強い構成だと思います。しかし、システム上「キャラがどんな風体をしているか」が伝わり難いので、工夫が必要な部分です。藤吉有明が自らの外見について言及していますが、一度しか使えない飛び道具です。

 例えば「胸見んのはいいけど、2秒以上で痴漢認定すっからね?」「なんて冗談冗談」「あたしは仕事柄こういう服着てるわけだけど、「女にも責任がある」ってバカなこと言う男が多くて」のような会話で、きわどい格好をしていることを伝えられそうです。

 それで言うと、藤吉有明が財前京子について「ありゃあナチュラルに痴漢する」などと評していたのも上手いやり方だと感じます。「キャラの噂話」は、他キャラが他キャラを立てるにあたって便利な手法なためです。

 誰が誰に対しどんな印象を抱いているか、当人の口から語らせることで、そのキャラの価値観や考え方が分かりますし、噂話をされたキャラの印象も強まるという寸法です。噂話が「モブキャラ→メインキャラ」の構図でも、「多くの周辺人物にそう思われている」という形式が成り立つので便利です。

「キャラの噂話」が最も効果的に使われている小説は『涼宮ハルヒの憂鬱』だと思います。

 


 財前京子の「対象の周辺人物に冤罪を着せる」という善人をも巻き込むやり方は、他の方法と比べ大きなズレがあるので、整合性が求められるところかもしれません。「優秀なためにアーバン・スイーパーズに雇われているが、過激な思考が容認されているわけではない」「腕は認めるが、個人的に賛同はできない(と他キャラに語らせる)」などです。

 より問題なのは、正確に言うと「善良な市民を巻き込む」ではなく、「善良な読者を巻き込む」可能性があるためです。「読者への攻撃」はラノベにおけるタブーの一つです。

 読者はおそらく、「こんな裏組織が現実にもいてほしい」と感じながら読み進めています。そこに「自分も攻撃される可能性」が出てくると、応援していた熱が冷める危険があります。「こんな奴等が実在しなくてよかった」と思われるかもしれません。

 盗んだお金を庶民へばらまくねずみ小僧のように、あくまでも「社会を正す必要悪(善良な庶民=多くの読者の立ち位置を脅かさない)」として、読者から応援される形を守る必要があります。

 社会的に殺すまではいかなくても、倫理にもとる生き方をしていたら、誰かが罰を下しに来るかも……。くらいの印象にコントロールすれば、安心して読み進められると思います。

 逆に、「読者からの反発も覚悟の上」「過激な必要悪も含めて、読者に考えさせる」と針を振り切らせるなら、『デスノート』のような世界観になりそうです。

 

 

〇ストーリーについて

 視点人物へ語りかけるような仕組みが面白いです。しかし長く続けるには向かず、短編向きの形式だなと感じます。一冊分をこの語り口で通すのは難しそうですが、今のところ5万文字くらいに収まっていますし、飽きも感じません。

 分量さえ規定を満たせば、ラノベ賞レースの一次選考には通るのではないでしょうか。

 

 飽きさせない工夫・理由ですが、「語り手が変わる」点に尽きると思います。皇法子の語りで始まりますが、途中で「ずっとこれだと厳しいな」と感じました。「〇〇部門のエース」のような、別の語り手が登場してほしいな、と。

 期待通り、財前杏子や藤吉有明が登場し語り手が交代したので、話にメリハリが出たと思います。

 

 キャラの仕草や主人公のリアクションを挟めず(不可能ではありませんが)、基本的には「語り口」のみでキャラを立てる必要があるため、「誰が喋っているのか」を徹底的に分かりやすくするのは、このスタイルの必須条件だと思います。今は問題ありませんが、今後新キャラを出すとしたらの話です。

 


〇ストーリー展開について。

 重い部分も多々ありますが、スカッとする話だと思います。世界観の設定も練られているため、リアリティ・説得力を感じます。

 惜しむらくは、終始設定の説明に留まっており、ストーリーと呼ぶには物足りない点は残念です。あえて悪く言うなら「設定を解説しているだけ」なので、物語性が薄くなってしまっています。

 逆に言えば、「にもかかわらず面白い」です。「設定の面白さ」を「演出の工夫」「キャラの分かりやすさ」で伝えている小説だと思います。解説の中にも緩急はあるので、その点もプラスに働いています。

 


 ストーリーの流れと掛け合わせて、設定を小出しにすることで、盛り上がりが作れると思います。

 例えば、123番の解説なら

「君のクラスにいた〇〇さんだけど、とえりあえず3番での対処が決まったから安心してね」「あ、3番っていうのはね」

 で始まり(1番は仄めかす程度に留める)、

「いやぁなかなかに骨のあるヤツでね。病室から司令出して手駒操ってるのよ」「大丈夫、こういうときのための2番よ」

 と繋がった最後に、

「2番でも駄目となると、1番に移るしかないわね」「なにって、あなたも薄々感付いてるんでしょう? その程度には優秀だと評価しているわ」「対象の殺害よ」

 と情報を開示するなどです。

 

 ヒダマルなら、「0番」の存在だけ提示しておいて、内容については最後まで明かしません。

 3~1を通じて同じ人物でもいいですし、「この間のヤツは2で片付いたけど、今度は本物のサイコパスだから」という理由で1番を解説する流れも考えられます。1番の特殊性からして、同一人物でやるには難しそうです。

 しかし、「ストーリー性は抜きにして、キャラと設定(キャラによる設定解説)だけで勝負する」と決めるなら、それはそれで面白い・新しいと感じます。この場合、長編には向かないと思いますが、短編集としての面白さは発揮できそうです。断言はできませんが、この調子で10万文字くらいまで書き上げれば、一次選考通過は狙えると思います。(この場合、ラストをどうするかが難しいところです)

 


〇冒頭の大切さについて。

 冒頭の設定説明は、典型的な悪手の一つです。一つですが、この場合、視点人物へ語りかける独特な方法を取っているので、悪さが和らいでいると感じます。ただ、それでも情報量がやや多い印象があるので、第一話の「アーバン・スイーパーズ」という言葉の意味に関する文章は削った方がいいかな、と思います。なんとなく想像は付きますし、後に回しても問題なさそうです。

 

 小説は冒頭が命です。

 現代人は忙しい上に、労力が少なく受動的に楽しめる娯楽がいくらでも溢れた環境にいます。その中で、能動的に活字を読む必要がある小説というエンターテイメントは、おそらくかなり弱い立場にあります。

 小説は、冒頭の3ページ(形のある本なら、の話です)で読者の心を掴まなければ、負けです。その時点で「面白そう」「もっと読みたい」と感じさせることができたなら、10ページまでは読んでくれます。10ページまでが面白ければ30ページ、100ページと続き、おそらく、100まで読んだ読者は最後まで読んでくれます。一安心です。油断はできませんが。

 

 欲を言えば、初めの3行。ここが面白ければ言う事はありません。ヒダマルが小説を作る時は、冒頭3行での必殺を意識しています。多くの場合、1行目から勝負をかけます。

 冒頭では、衝撃的な情報や展開で興味を惹いたり、既に危機的な状況にあったり、印象的なシーンを先に魅せたり、台詞や長文などの独特な組み合わせで文章力を魅せたりと、小説書きが全身全霊を傾けるべき部分です。

 ここは、プロの先生方から盗んだ方がいいと思います。個人的に「3行~3ページ」までの構成が最も凄まじい小説は、先ほども出た『ハルヒ』だと思います。

 逆に、「ラストの1行こそが勉強になる」と主張される方もいらっしゃいます。

 

 

〇設定について

 冒頭部分から専門用語が多い印象なので、情報量を押さえて「何についての話をしているのか」がブレないようにすると、読みやすくなると思います。

「ダストシューター」や「対いじめ特務機関」が、「アーバン・スイーパーズ」とどのような関連があるのかが、少々伝わり辛いです。前者二つがアーバン・スイーパーズの母体なのか、それともアーバン・スイーパーズの組織の中にそのような部門や子会社・下請けのような存在としてあるのかです。一通り説明された後に「アーバン・スイーパーズに包括される組織」である点が明確になる一言がありますが、そこに至るまでが宙に浮いた状態です。

 というより、設定上は「ダストシューター」「アーバン・スイーパーズ」のどちらかの名称は削った方がいいかと思います。「「アーバン・スイーパーズ」のメイン部門「ダストシューター」」とするより、統合してしまった方が読者にとって分かりやすいためです。

「「トヨタ」のメイン部門「自動車メーカー」」よりも、「トヨタは自動車メーカー」とひとまとめにした上で「他にも、「金融」「緑化」「住宅」などの部門がある」と伝えた方が、理解しやすいと思います。

 

 

〇文章について

 この形式では、「誰が喋っているのか」を明確にして、それぞれの語り手だけが持つ魅力がなければ、一気につまらなくなりそうです。しかし、その点はクリアしていると思います。その分、読者は「次の語り手はどんなキャラだろう」と期待して読み進めるので、ハードルが上がる部分でもあります。

 

「オカマ」「ホモ」といった差別用語が含まれているので、そこは変更した方がいいと思います。

 ヒダマルも不勉強で、これらの言葉がなぜ差別に当たるかといった詳しい理由は知らないのですが、ここは「ゲイ」などの問題ない言葉に変えることが、倫理的に推奨されます。「これが自分の表現だ」、と貫く道もあるにはありますが、無用に読者を傷つけ敵を増やすことになるので明確にお勧めしません。

 

 余談ですが、『ワンピース』のミスター2は原作で「オカマ道」の文字を背負っていたものの、アニメでは「盆暮れ」に変更されていました。『とんねるずのみなさんのおかげでした』30周年特番にて登場した「保毛尾田保毛男」が大きな物議を醸したこともありますし、LGBT関連のネタを扱うなら勉強しておく必要があります。

 

 前回のジェンダー論にも通じますが、この辺りの変化は日進月歩なところがあるので、情報に敏感になっておくことをお勧めします。

 例えば、異性愛者を「ノーマル(普通)」と表現することは、同性愛者を「アブノーマル(異常・病的)」と捉えることにも繋がるため、「NL(ノーマルラブ。BLやGLに対応する言葉)」を差別用語と考える向きもあります。

 しかし、NLのNは「男女(なんにょ)」「女男(にょなん)」のNでありノーマルとは関係ない、そもそも「原作通りのカップル」の意味で「ノーマルラブ」と表現しているため、差別用語に含むことはおかしいとする意見も。魑魅魍魎な感があります。

 差別する意図がなくても、糾弾されれば燃え上がるのがネットですから、表現する者として意識は必要です。

 

『シティーハンター』や『ゴルゴ13』の作品名が出てきますが、他作品の名称は出さない方が無難です。投稿サイト内での感覚は分かりませんが、基本的には、創作内で他の有名タイトルを直接出すと白ける危険があります。

「人知れず街を守る掃除屋、みたいな漫画あるじゃない? 知らない? 去年だっけ、映画化もしたんだけど」のように、読者が「あ、あの話題だな」と感付く程度の表現にぼかした方が味が出ると思います。あるいは、『街の狩猟者』『コルコ13』のようにタイトルを変えるのも手です。

 

 一方で、『ハムレット』や『人間失格』のように、純文学よりの作品名は出してもいい、といった空気もあります。「作者の死後五十年」という、著作権の切れるタイミングを超えているかどうかで見分ける方法を取ると、分かりやすいかもしれません。