ヒダマルのラノベ講座。

ヒダマルが考える、ライトノベルの作り方。来たれ小説書き。

『メタモル・ファイト!』へのアドバイス。

 

※真城悠さんに了解を取り、アドバイス内容を全文お伝えしています。

『アーバン・スイーパーズ』もそうですが、くれぐれも外部へ漏らさないようお願いします。

 

 

 こちらも『アーバン・スイーパーズ』と同様、真城悠さんの作品です。お得意様です。

 たっぷり読んでたっぷり答える、大仕事でした。

https://ncode.syosetu.com/s3754c/

 

『メタモル・ファイト!』はいわゆるTS(トランスセクシャル)ものです。

「触った相手を女性に変える」特殊能力者たちが、スポーツのような形でバトルします。主人公が複数人おり、それぞれ別の場所・別の視点の物語が語られます。

 

 こういった設定で「真城の秘宝館」として成人向け電子書籍を多数売り出しており、TSは真城さんの大得意ジャンルです。

(手前味噌ながら「この設定は漫画に向いている」と評したのは、秘宝館を知る前です)

www.dmm.co.jp

 

 

〇キャラクターについて

 斎賀の初登場時、橋場がいやに好戦的だった点が腑に落ちない印象です。

「女の子の仇を取り逃がした」とはいえ、少し攻撃的すぎる感覚があります。突然現れたメタモル能力者を怪しいと感じつつ、情報や目的を探ろうとするなど、困惑するのが第一ではないでしょうか。

 

 また、メリットが何もない上に負ければ女性になる、というメタモル・ファイトですから、初めて情報を耳にした橋場が易々と受けることにはやや説得力がありません。取り逃がした一人が決定的な証拠や情報を持っていたり、斎賀が橋場を道徳的に激怒させるような言動をしたりしていない限り、そんなに大きなリスクを取る必要がないためです。

 斎賀に対し初めから攻撃的だったのも含め、「ストーリーのためにキャラが動いている印象」を与えます。ストーリーを進めるためにキャラがいるのではなく、「キャラが動くことでストーリーが進む」が基本にして理想です。

 

 「戦ってほしい」と伝えられてそれを受ける、のではなく、説明の途中にいきなり襲い掛かられてバトル、といった流れが自然かと思います。

 

〇潮崎美夕について。

 潮崎美夕のキャラが薄いため、メタモル能力のことがバレそうになった際にも、危機感が伝わり難くなっていると思います。実夕にバレることによって、具体的にどんなデメリットがあるかもよく分からりません。「実はこんな能力がある」「隠しておいてほしい」で済むと言えば済んでしまうためです。

 橋場たちが美夕に関して言及している場面も、実夕が前面に出てくる間にほとんどないので、どういった立ち位置のキャラクターなのか、ストーリーに何をもたらす存在なのかがあやふやな印象です。

 

「謎の少女の場合」で再登場した際、デートの約束を魔法少女姿ですっぽかすシーンは面白かったです。ただ、あそこで追求されたり誤魔化したりといった掛け合いこそが面白いはずなので、あっけなく次のエピソードへ向かったのがもったいないと感じました。

 事情を知らないヒロインが攫われて主人公の秘密暴露のピンチ、という展開はお約束ですが、ちょっと唐突感が強い印象です。橋場がなんの抵抗もなく女性にさせられてしまったのも、主人公としてやや弱いかと思います。「秘密がバレることを顧みずバトルを行い、有利かと思われるも、相手の卑劣な策略により、変身を余儀なくされる」といった流れがあると、橋場の主人公性が守られると思います。このまま実夕について語ります。

 

〇ヒロインの資格について。

 悪漢から人質に取られナイフを突きつけられたところを救われておきながら「男の尊厳はないのか」「変態」といった言葉を投げる美夕は、ヒロインとしては明確に失格です。(ヒロインではないのかもしれませんが、謎の少女が現れるまではヒロイン枠です)

 そこに至るまでにキャラ立ちや親近感などの「読者に応援される資格」を積み重ねていればまだ別ですが、実夕の場合、序盤の方に登場したっきりなので、忘れられている可能性が高いです。そこにきて、プライドを捨てて彼女を守った主人公(読者)にこの対応では、確実に幻滅されてしまいます。これでは、今後も彼女のために行動する橋場へすら「なんでそんな相手のご機嫌を取るんだ」と不快感を買われる危険もあります。

 

『メタモル・ファイト!』の想定読者は男性だと思うので、その方向で分析しますが、「何か問題が起きた時にこちらの都合を顧みずヒステリックに怒鳴り一方的な要求を通そうとするヒロイン」は、かなり面倒くさいと捉えられます。『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』『とらドラ!』『灼眼のシャナ』など、主人公を顧みようとしないヒロインキャラは意外と多いのですが(特に一巻において)、このデメリットをカバーするためのキャラ設定やストーリーが駆使されているために微妙なバランス感覚で許されている特徴です。

 美夕の場合、人質エピソードへ至るまでの積み重ねや情状酌量の余地がほとんどないため、読者の心はかなり離れてしまうと思います。せめて久しぶりに登場した前のシーン(デートをすっぽかす話)でしっかり親近感を与えておかないと、「実夕を嫌いにさせるためのエピソード」になっています。ただ、その直後に鬼頭真琴が現れて読者の気持ちを代弁してくれるので、憂鬱な気分でいる時間は短くなっています。

 

 主人公とヒロインとの「対立」は面白い展開ですが、両者に対して「こういう事情があるから、どちらが悪いとは一概に言えない」「お互いに深く想い合っているはずなのに」という感覚を用意しなければ、一方への好感度が下がるばかりになってしまいそうです。この感覚があれば、「すれ違う恋人たちのもどかしさ」が生まれ、読者も応援したくなるはずです。

 橋場の部屋で変身した際の葛藤やブラの喧嘩シーンはコメディとして面白かったので、こういったバランスさえ気を付ければもっと面白くなると思います。
 現状ではおそらく、実夕が別れを決意したシーンで「橋場、よかったね」と感じられてしまいます。

「デートをすっぽかすエピソードで「メタモル能力」の秘密がバレて、軽蔑されるも、その後の人質事件で献身的かつ壮絶な戦いを魅せ、橋場をののしって悪かったと謝る」といった流れなら、ヒロインとしての好感度を下げることなく話を進めることができそうです。その上で「やはり関係を続けることはできない」となってもそれはそれで「特殊な力を持ったが故の悲しい運命」といった演出ができそうです。

 

〇視点の操作について。

 キャラというよりストーリーや文章の話になるかもしれません。キャラの魅力を伝えるにあたって効果的なのが、「他人の視点から見る」ことです。

 第三章のプロローグでは、ハイジャックを受けた飛田が冷静に対応していますが、これを犯人の視点へ寄せて描写することで、飛田というキャラの特異性が伝わるのではないでしょうか。

(こいつ……。銃を突き付けられておいて、なんだこの平静さは?)(まぁいい。下手に慌てられて、騒ぎが大きくなるよりはましだ。好都合だ)

 などの感想を置いた上で、更なる意外な展開に驚きを隠せない心理などを入れれば、読者は犯人の視点から、飛田というキャラの凄味を感じることができます。

 

 現状は、「女体化させられた際に敵の視点へ寄る」というパターンなので、もう少しバリエーションがあってもいいと思います。例えばこの場合でも、状況的に飛田が能力者かと思いきや、ハイジャック犯がそうだった、などです。

 

「ある人物から見た評価」をさせるのは、色々と応用の効く方法です。

 例えば、印象を操作したいキャラに関しての「噂話」をさせるのも効果的です。『涼宮ハルヒの憂鬱』では、ありとあらゆるキャラクターがハルヒの噂を口にします。『新世紀エヴァンゲリオン』ではほぼ全員が碇シンジへ意識を向けていますが、「自分自身ではなく、エヴァのパイロットを求めているだけ」という葛藤へ繋がっています。すべてのキャラが主人公へ視線を向けているために、強烈なキャラ立ちが実現されています。

 

 バトルのクライマックスにも使えます。主人公が勝負を決める一手を打った際などには、敵の視点に寄せて描写することで、緊迫感や意外性が演出できます。

 呉とのバトルも、「店の奥に逃げた二人を余裕の表情で追う呉。一方的な狩人」といった印象で前フリしておくと、同じ視点で意外なことが起きた際の驚きは、呉自身が進行形で感じ続ける驚きとしてよりストレートに読者へ伝えることができます。

 

 この方法は漫画作品に顕著で、『BLEACH』で一護が卍解に目覚めた際は敵役の視点に寄りますし、ルフィが「ギア・2」や「4」を初めて使った際も同じです。

 視点の位置が中途半端というか、使い方がうまくない印象があるので、こういった方法も意識するとより面白くなると思います。

 

 

〇ストーリーについて

 呉副妹が初登場するシーンですが、呉が能力者であることは伏せておいた方が効果的ではないでしょうか。中華料理屋のシーンがあり、呉副妹の独特なキャラを見せた上で、「実は能力者だった」と判明した方が、意外性のある展開に繋がると感じます。特に女性のメタモル能力者は初なので、「そう来たか!」と思わせられるかもしれません。

 

 情報開示順は大切です。「情報開示の順番とやり方を変えるだけで見違えるのに」と感じる小説は沢山あります。

 

 また、「ボクにアイデアがあります」と作戦をほのめかした後、550文字程度で戦いが決着しているのも勿体ない点です。これも、情報開示順を変更することでもっとボリュームのある戦いになりそうです。

 既に女体化した状態で呉の前に現れ、「そこまでだ!」と叫んでしまうと、読者へ手の内を明かした状態になります。そして、こうした場合、作戦はほぼ間違いなく失敗に終わるのが通例です。

『遊戯王』で言えば、(次に相手が攻撃してきたら、この罠カードで逆転だぜ!)なんて作戦を読者へ伝えているキャラは、間違いなく失敗に終わるのと同じです。そのパターンで勝利するなら、「読者が持っている情報をもとに、更に驚かされる展開」が求められます。

 

 味方側の作戦を成功させるなら、読者へ伝える情報をコントロールする必要があります。例えば「雑踏に紛れた二人と、二人を探す余裕の呉」「少女がよろめいてきて、呉にぶつかる」「無視して周囲を見渡す呉だが、身体に異変が起きていることに気付く」といった流れにすれば、読者は呉と同じ視点から「何が起きたんだ」と驚きます。そして、よろめいてきた少女が突然「かかったな」などと口を開いて種明かしをすれば、劇的な効果が期待できそうです。

 

 新キャラが一人ずつ登場してメタモル・ファイトを提案する、という流れがワンパターンになっているので、その後の展開にバリエーションがあっても、入り口で「またか」と思われる危険があります。

 メタモル能力を悪用した犯罪組織の存在が判明しそれを追う、といった、何章かに渡って続くような大きな流れがあると、また違った雰囲気になると思います。主人公たちの明確な目的・目標が存在しないので、常に流されているような印象を受けることも防げます。「安藤士郎の場合」でその兆候が現れますが、少々出し惜しみしすぎていると思います。

 

〇設定説明について。

 水木や飛田の回が特にそうなのですが、情報を確かめ合うためのシーンが多く、設定を伝えるためだけに物語が構築されている印象です。「漫画で分かる〇〇」を読んでいるような、勉強をしている気分にもなり得ます。「設定を伝える」という目的が先にあり、それを実現するためにキャラとストーリーが添えられている結果になってしまっているので、これは非常に危険です。

 

 一方、ややこしい設定を伝えるにあたって、印象に残るシーン(女体化)を先に魅せたり、地の文にすべてを委ねる最大の悪手は避けたりと、工夫はされていると思います。どうしても情報量が多くなるのが悩みどころです。ありとあらゆる美女・コスチュームへ変身できるビジュアルの魅力と相まって、表現としては小説より漫画に向いていると感じます。お色気シーンが多々含まれる異能力バトルもの・設定は複雑なものの頭を使ったバトルが楽しめるとなれば、読みたいです。

 

 そもそもになりますが、設定のポイントは「分かりやすさ」だと考えています。複雑な設定がダメな訳ではありませんが(実際、複雑なメタモル・ファイトの設定を理解した上で読めば面白いエピソードも多いです。朝原くんの話が好きです)(しかし、理解するためのハードルが高いです)、複雑になればなるほど、読者の興味を惹きつけ続けるのも難しくなります。上級者向けだと思います。

 

〇バトルの流れについて。

 戦闘を盛り上げるポイントは「1123の法則」です。「一進一退」「二転三転」を組み合わせた造語です。

 スパッとストレートに勝つのではなく、「一進一退」の攻防を描く。そのままだと単に「押したり引いたり」なので、同時に「二転三転」もさせる。つまり「戦闘の状況を変化させる」。ここに、ストーリーの基本「「これ」が起きたからこそ「それ」に繋がる」があれば、起伏のある展開になります。

(この基本は、シンタロウ・オガタの旅路に最も当てはまっていると思います。シンの話が一番好きですし、文体も他と違う魅力を感じます。風俗知識の豊富さも驚きです。アメリカに住んでました……?)

 

 個人的に、「1123の法則」が適用されているバトルの最高峰は『ジョジョの奇妙な冒険』第五部の「ナランチャVSスクアーロ&ティッツァーノ」だと感じます。

 この戦闘エピソードには「攻撃したからこそ反撃を受ける」「反撃を受けたからこそ弱点が見える」「弱点が知られたからこそ新たな活路が生まれる」「新たな活路へ懸けたからこそ危機に陥る」といった「流れ」が常に存在しています。ぶつ切りの一幕が一切存在しません。

 飛田との戦いは多少この流れがありました。サングラス男との話も、場所の変化も相まって「転」があったように思います。倉秋たちとの戦いが最も熱いです。ただ、バトルを本格的に盛り上げるなら、全体的にもっと「一進一退」「二転三転」がほしいところです。


 これもバトル描写での悪手です。長四木との戦いで「そこから先は細かい描写がいちいち出来ないほどの凄まじい戦いだった。」とありますが、小説家としての仕事を放棄している上に、神の視点を超えた「作者のメタ視点」になってしまっています。なんでもありのコメディでなければ使えない方法です。(時雨沢恵一先生の『学園キノ』はこんな感じでもあります)

 また、瑛子と群尾が遭遇した初のメタモル能力者でもあるので、もっと緊迫感がほしいところでした。襲われそうになっていた少女も能力の被害者なのか、瑛子が負けたらどうなるか、群尾を守りながら戦えるのかなどの美味しそうな問題が設定可能なので、もっと膨らみのあるエピソードにできたと思います。二人にとって予想外かつ過去最大のピンチのはずが、いつの間にか戦闘が終わっていたので、あっけない印象でした。

 

〇説教・説明について。

「小柴弘樹の場合」ですが、過去のストーリーから出てきた情報をまとめて真相に近づくサブキャラが登場するのは、「これから何が起こるんだろう」という期待を生むと思います。会話形式が多いのは好き好きかもしれません。個人的には、全体的な会話の多さも相まって、会話に頼らないストーリーの進め方も工夫できればいいと感じます。

 ただ、途中で「若者批判の的外れっぷり」を解説する方向へ舵を切っているので、「何の話なんだ?」と思われる恐れはあります。ラノベの読者の多くは30代以下の若者でしょうから、方向性自体は間違っていませんが、急に読者への説教が始まるような印象を受けます。

 シンの話でも全体的に見受けられ、新しい単語が登場した際に「〇〇とは××という意味で~」のような説明が所々に挟まるので、くどい印象があります。丁寧に下調べして書かれていることは伝わりますが、ストーリーを進めるかキャラを印象付けるための情報を吟味して解説する必要を感じます。「遊興王」に関する話も、ややくどいと思います。同じく「その7」の冒頭、アメリカの風俗についての説明もです。

 

 プロの作品にもこういった説明文じみた文章はありますし、個人的にも大嫌いなわけではありませんが、早くストーリーの本題に入って欲しいとは感じます。7の「論理について」「愛称について」の文章なども、小説においては不必要ではないでしょうか。

 説明が挟まれる度にキャラの動きが止まり、ストーリーが中断しているので、キャラの動きでストーリーを前に進めることだけに焦点を絞った方がいいと思います。その上で、軽く情報を入れた方が世界観を演出できると判断された部分だけを味付けすれば、無駄の少ない文体になると思います。

 

 武林と斎賀それぞれのエピソード、橋場と実夕と真琴の三角関係が取り上げられた「5」は、全体的にレベルが高かったように感じます。失礼かもしれませんが、この辺りから「急に面白くなってきた」という印象もあります。

 ただ、武林と白鳥の話で登場した女性ですが、「なぜ追われているのか」「その後どうなったのか」に言及がないので、登場した意味がありませんでした。また、人質男が再び実夕を連れて来たのも、ワンパターンになってしまっています。「その状況を作るために(ストーリーのために)キャラを動かした」という感覚があります。基本的に、「ストーリーのためにキャラが動く」のではなく「キャラが動くことでストーリーが動く」のが理想です。


 随意の変身と不随意の変身を利用した「疑似的な自由変身」という情報も、どうせなら戦闘の中で、ストーリーを通して伝えた方が効果的だと思います。

 例えば、体術はイマイチだがメタモル能力は強力な敵(それこそ飛田のような)が現れ、絶体絶命の事態にこのアイデアを試し、純粋な武術での勝負に持ち込むこともできます。活躍するキャラを武林にすれば、これまでいい所がなかった彼の見せ場を作る(結局変身してるので、お約束も守れます)などが可能だと思います。

「疑似的な自由変身」の設定を先に開示しておくと、次に戦う際には「その情報を前提として、更に予想を上回る展開」が要求されます。


 妊娠や出産に関わるメタモル能力の真髄を語っている所へやってきたセールスマン・倉秋健人の話に、すんなりと乗っている流れが不自然だと感じます。「大事な話してるから」と相手にしないのが普通だと思われますし、倉秋にしても高校生に商談を持ちかける意図がないはずです。

 卑劣な作戦を取ってくる倉秋の「5回のタッチによるポイント制」の提案を、橋場がすんなりと受け入れている理由も分かりません。相手の提案であれば、こちらが一方的に不利であることは明白なためです。開始前の握手や試合途中の提案を受け入れるのも同様です。「衣装に触れてもポイントが入る」という情報を知れば「ウエディングドレスかなにかだろう」と予想もつきます。

 倉秋をとことん悪役にして、橋場を「相手の提案を飲まざるを得ない状況」まで追い込めば、説得力のある緊迫感が作れると思います。

 

 ただ、この闘いはシリーズ中最も面白かったと感じます。「1123の法則」が機能しており、負けた際のペナルティも大きなものであったため(妊娠がどうの、という話が出た直後だったのも大きいです)(ただ、橋場たちがそのリスクに言及しないのはもったいなかったと思います)、「勝負の行方や如何に」という興味をそそられました。
これまでの「遊び」としてのメタモル・ファイト、「どちらが勝っても元通り」ではない面白さがあったと思います。

 

 

〇設定について

「TS」というジャンルの存在をここ最近知ったもので、ここについて語れるものは少ないのですが、ご容赦ください。

「男女に幾度も変身する」「その都度描写する」といった形式を様式美と捉え、楽しむ読者がいるのだろうと想像します。SF好きやロボットアニメファンなどと同一の傾向だと思います。そういった方にとっては、かなり読み応えのある設定かもしれません。

 

〇メタモル能力について。

「衣装に細かい変更を加えることも可能」という設定もありますが、バトルへもたらす効果がほとんどない点ももったいないです。……と思いましたが、後半になるにつけそういった戦い方が増えていきました。序盤ではほとんど一撃必殺の能力なので、展開の幅が狭くなってしまっているように思います。

 そして、能力を使って戦っても特にメリットもデメリットもないなら、目立たないよう普通に過ごして力仕事や格闘技で生計を立てると思います。

「V」や「一勝ゲットです」「無駄に勝敗増やしたくねえ」などの台詞もありますが、勝敗数に応じた損益の設定も無いので、これも設定として弱くなっています。

 

 唯一大きなデメリットが「女体化に慣れると元に戻れなくなるらしい」ですが、これも「らしい」という情報であり、小説内に実際に登場したわけでもないので、読者としては腑に落ちない形です。

「元々シンは正々堂々と戦う積りだった。メタモルファイトにしたのは、負けても一時的に女にされて女装させられるだけだと分かっているからだ。」とありますが、読者としても正に同じ感覚です。「勝っても負けてもいい勝負」なので、勝負への緊迫感が生まれにくくなっていると思います。

 バトルではなくコメディを主軸に描きたいのだとしても、何らかの強い「目的」が必要ではないでしょうか。

 

 相手を女体化させて戦う設定は、なかなか人を選ぶ題材だろうなぁ、という印象はぬぐえません。バトルにしても、「メタモル・ファイト」自体には勝っても負けても特に実益も実害もないので、キャラへの感情移入が難しい部分はあります。キャラクターによっては実益も実害もあるのですが、読者が普遍的な感情を揺さぶられるような、根本的な目的がほしいところだと思います。「犯罪グループを壊滅させて街を守る」などはそれにあたります。

 

 基本的・表面的な題材が人を選ぶからこそ、心理的なそれは「誰もが納得・共感できるもの」を押さえておく必要があると感じます。

 漫画やアニメだと視覚的な変化が分かりやすいためまだいいのですが、文章で女体化・女装化を逐一描写する、そして何度も起こるそれらを飽きさせないように伝え続けるのも、なかなか高いハードルだと思います。

 ラノベですから、画像や映像になった際に映える要素が存在すること自体は間違っていません。高評価されるポイントだと思います。

 

〇メタモル・ファイトの目的。

 前回もお伝えしましたが、メタモル・ファイトを行う強力で明確な「目的」が必要だと思います。

 斎賀の台詞「対戦ゲームのプレイヤーに同じこと聞きます? 何が目的で戦ってるのかとか。戦いそれ自体が面白いからですよ」は確かに本質的な答えであり、一人のキャラの目的としてはカッコイイものです(そのため、「ここぞ」という場面で使えばもっと劇的な印象になると思います)。

 

 しかし、エンタメの設定としては弱いと感じます。戦う理由が「戦うのが好きだから」ではなく、「海賊王になるため」「攫われた仲間を救うため」「火影になるため」「鬼になった妹を人間に戻すため」に戦っている方が、ドラマが大きくなりやすいためです。であればこそ、「海賊王になるのは俺だ」「人質は返さない」「木の葉の里を潰す」「鬼を葬る」など、敵対者の目的と衝突した際の盛り上がりが生まれます。

 

 目的と手段を同一にするなら、とにかく本気でそれと向き合っている姿を魅せることが重要になります。「甲子園優勝」「病気の子のためにホームラン」のように、具体的な目標を設定するのも効果的です。

 例えばサッカー選手は、サッカーが好きだからサッカーをしているに違いありません。だからといって、勝利や点数にこだわらないサッカー選手はいないはずです。負ければデメリットがあるためです。より良いチームへ行きたいでしょうし、ワールドカップも目指しているでしょう。しかし実はサッカーはどうでもよくて、世界的に有名になることで生き別れの妹を探しているのかもしれません。これらが「目的」になります。

「目的と手段が同一の行動」を「遊び」と呼びますが、「どれだけ真剣に打ち込んでいるか」「もし敗北したら、どんな状態になるか」などを伝えることができれば、物語の面白さは何倍にも膨れ上がるはずです。実際に、あらゆるスポーツ作品はこの方法で面白さを確立しています。(ヒダマルは漫画『アイシールド21』、アニメ『はるかなレシーブ』しか詳しく知らないんですが……)

 

〇設定説明について。

「水木粗鋼の場合」の冒頭でメタモル能力についての解説をしていますが、設定を地の文で伝えるのは悪手の一つです。主人公の自問自答などならある程度は可能ですが、設定説明になってしまっているので、ちょっとまずいかな? と思います。

 小説は基本的に「論より証拠」「百聞は一見に如かず」で、地の文ではなくエピソードを魅せることによって、色々な情報を伝える必要があります。

 

 細かなルール・制約が多いためでもあると思います。ルール設定はなるべく読者へ伝えておかなければ、「実はこんなルールがあったのさ」といって解決した際に、読者を怒らせることになります。フェアでないためです。それで言うと、群尾が女性になっても特殊体質で元に戻れた、というのはご都合主義に捉えられかねません。

 しかし、制約が多ければ、その分だけ設定の伝達も大変になります。『メタモル・ファイト!』という小説の、非常に難儀な部分だと思います。市販の作品で、設定・固有名詞が複雑な小説を読んで研究してみるのがいいかもしれません。鎌池和馬先生の『未踏召喚』シリーズは、先生ご自身が「複雑怪奇なバトル」だと称しているので参考になると思います。

 

 

〇文章について

「!」や「?」の後は一文字開ける、「…」(三点リーダー)は偶数個で使う、といった文章の基本が守られていなかったので、そこは基準に沿った方が無難です。

「小説家になろう」にて、「長四木並絋の場合 9」が「長四木並絋の場合 10」の文章と被っており、二重投稿のようになっていました。ご確認ください。

 

 シンタロウ・オガタの話だけ、文章が洒脱になるというか、こなれた感じが出ています。洒落た言い回しの会話と必要最低限の地の文(説明以外)、といった印象でした。キャラの仕草などを無視して会話が進む、という弱点は感じます。

 気のせいかとも思いましたが、第六章でもやはり、日本の雰囲気とは違った、洒落た印象の描写になっています。「どんな風に言ったのか」を考える場合、こういったアメリカンな雰囲気を意識すると、他の部分のレベルも上がる気がします。

 

〇視点の混乱について。

「怒りなのか何なのか、激情に燃える男は空中で猫の様に丸まって足を地面に付き、それを蹴って再び飛び掛かってくる。」
「次の瞬間、信じられないことが起こった。「…っ!??!」奇妙な感覚と共に、目の前に何かが広がった。時間が止まった様に感じられるほどゆっくりとそれが落下していく。降りたことで視界が広がると、先ほどの生意気な学ラン小僧がニヤニヤしてこちらを見ている。」

 

 前半までは「脳筋男をあしらう橋場の視点」だったのが、「次の瞬間」からは脳筋男の視点にシフトしています。

 基本的には、視点を固定することで書きやすく・伝わりやすくなります。ただ、『メタモル・ファイト!』の場合はその調整が難しい所です。「女性に変身する」という設定だと、どうしても身体感覚への言及が多くなるでしょうから(それが悪いわけではありませんし、読みどころの一つだと思います)、視点の混乱には注意する必要を感じます。

 少なくとも、三人称視点で他の人物の身体感覚描写(極めて一人称に近い描写)を急に入れると違和感があり、読者の感情移入先としてそちらのキャラが強くなる点は意識しておいた方がいいと思います。

 

〇会話について。

 橋場、斎賀、武林の三人での会話シーンで、誰がどの台詞を喋っているのか分かり辛いと感じます。丁寧口調の斎賀はいいのですが、橋場と武林は同系統なぶっきらぼう喋りなので、どちらかをより極端にする必要を感じます。おすすめは武林です。

 メイド喫茶での会話など、3人以上が集まって話すと分かり辛くなります。小説書きさんの中には「5・6人以上集まる会話だと、誰の台詞か伝わらなくなる・誰かが黙ってしまう」といった悩みを持つ方もいらっしゃいますが、3人でこの現象が起こるのは問題です。また、カラオケボックスで水木と情報交換するシーンなども、設定のややこしさも相まってあまり頭に入ってきませんでした。正直なところ、会話シーンは苦手な印象があります。

 度々「これは橋場」といった形で、誰が口にした一文なのかを伝えていますが、こういった方法を使わなくても伝わるようにしなければいけません。「」の前に名前を置くなども避けた方が無難です。

 

 会話中の仕草などもイメージして描写することで、台詞の意味やキャラクター性も変わってくると思います。同じ台詞を発するにしても、「背もたれに体重を預け、足を組み替えながら」と「固く組んだ指を額に当て、大きく息を吐いた後に」言うのとでは、印象が違うはずです。中華料理屋のシーンなどでは、誰が何を食べているかといった情報しかないので、そういった点を意識して差別化すれば、キャラ立ちというか、キャラへの親近感が生まれそうです。せっかく小道具があるのですから、「誰よりも強くなることを宣言しつつ唐揚げをかかげ、床に落とし、3秒ルールを適用する武林」などの描写を挟んで活かしたいところです。

 

「どんな口調で、どんな台詞を言うのか」と同時に「どんな仕草を交えるのか」も想像することで、誰が喋っているのか分からないという現象は回避できると思います。

 ただ、会話文の中に(苦笑して)(ため息)などと添えるのはお勧めしません。小説の作法として間違っているとは必ずしも断言できませんが、地の文でカバーするのが無難です。

 

 戦闘中の会話も同様です。飛田が女体化するかに見えた際に「と言う風に動揺するとでも思ったかね」と語りますが、地の文の描写が極端に少ないため、台本のような印象を与えます。

 武林と斎賀をCAにした強敵との戦い、そこで懸けに出て勝利したかに見えたわけですから、橋場はもっと大きなリアクションを取るはずです。冷や汗が流れたり、若者を馬鹿にした相手に勝ち誇ったりといった具合です。飛田も同様です。

 それを省略して、会話のみで話を進めているので、単調な印象を与えてしまっています。

 

 斎賀健治が初登場するシーンで、実際にメタモル能力を見せるのはよかったと思います。「論より証拠」「百聞は一見に如かず」で、設定はアクションで魅せる方が伝わりやすいためです。

 しかし、後の情報共有が退屈です。単調な会話文が並んでいると、説明文を読んでいる気分にもなります(地の文でやるよりはマシです)。

 斎賀はどんな表情なのか、メタモル能力者が他にもいることを知らされた橋場の動揺や身体感覚、「神のみぞ知る」をどんな口調で言ったのかなど、視覚情報を挟むことで臨場感が生まれます。

 

「情報を知っているキャラが、知らないキャラに教える」方法は、読者へ設定を伝えるにあたってお決まりの方法です。『とある魔術の禁書目録』一巻の当麻とインデックスの会話などがそれに当たります。例を挙げればきりがありません。設定を伝えるための会話を、読者を退屈させない形にブラッシュアップできれば、小説の面白さはもう一段階上がると思います。

 

〇漢字について。

 日常的に接することのない漢字は開くのが無難です。

「態々口に出して何だか釈明してしまった。放って於いても何とかなるんだけど、」

 の「態々」「於いても」などは、漢字を使わずに開いた方が読みやすくなると思います。「只管」「忽ち」「殆ど」「態と」「抛り捨てる」なども、おそらくほとんどの読者が読めない・読みづらいので、開いた方がいいと思います。

 

〇体言止めについて。

 体言止めがかなり多い印象です。体言止めは少なく抑え、文章にアクセントを付けたいときに置くのが基本だと考えている(ここは本当に、ヒダマルがそう考えているだけです)ので、意識してみるといいかもしれません。

 

〇比喩表現について。

 所々に出てくる比喩表現が非常に上手いです。後半になるにつけ登場しなくなるのが残念でした。

「南米のサッカーファンのお姉さんが応援しているチームが勝利した瞬間の喜びを百倍したみたいな感じ」
「カブト虫とクワガタのいいところを全部取らずに合成した上で巨大化し、二三十発ぶん殴った感じ」

 前者は主語が二つあるために少々読みづらくはあるものの、それぞれ簡単には出てこない表現だと思います。誰にでも書けるではありません。個性的な比喩は、文体へ大きなオリジナリティを与えます。このポイントを伸ばせば、文体の魅力はもっと上がるはずです。

 

 ただ、比喩表現が多すぎると分かりにくい文章になるので、多用しないように気を付ける必要はあります。しかし今はその問題は感じませんし、もっと多くてもいいと思います。「ゴキブリとカブト虫とニホンザルを並べて、一番人間に近いのがニホンザルだと言ってるみたいなものだ。」なども、面白い例えだと感じます。