ヒダマルのラノベ講座。

ヒダマルが考える、ライトノベルの作り方。来たれ小説書き。

拙作『野女と美獣』の面白さを解説します。

 

 みなさま、こんにちは。
 拙作『野女と美獣』のライターにしてエディターのヒダマルです。

 

 ヒダマルがはじめて書いた百合小説『野女と美獣』が「面白さ」を生んでいる仕組み、具体的にどういった創作上の工夫が入っているのかを解説していきます。「面白い理由」だけでなく、「弱点・難点」も紹介していますので、創作の糧にしていただければ幸いです。ヒダマルの、編集としての分析能力の証明にもなれば。

 

 作者としてはやはり、本編をお楽しみいただいてから読んでもらえると嬉しいです。『野女と美獣』は約2万文字、45分もあれば読めるはずです。ぜひどうぞ。

 

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キャラクターについて

キャラの力関係

  百合小説『野女と美獣』の主人公は二人とも女性ですが、この関係性はこの配置でなければ不可能だったと思います。

 まず、霞美のポジションが男だと、「女性に暴力をふるう男」に堕ちます。読者に好感を持たれるのは非常に難しいでしょう。霞美は女性である必要がありました。

 次に、鋼音と霞美の体格が逆だったなら? 「身長180超えの女性が、150以下の女性に暴力をふるう絵面」になります。「男性→女性」よりマシかもしれませんが、あまり楽しいものではないでしょう。いくら防御力が高かろうと、絵的にしんどいためです。

 

 つまり霞美は「小柄な女性」である必要がありました。そして、痛々しく見えないためには「大柄でタフな野生児」という鋼音の役柄はピッタリです。この力関係は、『とらドラ!』にも通じるものがあると思います。

 惜しむらくは、体格・身長の差異を気にしたり埋めようと努力したりする描写がなかった点でしょうか……。

 

キャラの人数

 メインキャラは「水野鋼音」「水野波音」「白隈霞美」の3人しか登場しません。2万文字強の短編ですから、人数は意図的に、最低限まで調整しています。

 長編にリビルドするための「水野姉弟の母」「白隈家の女性執事」「霞美の幼馴染」などは、キャラ設定こそ存在していますが、短編に見合う形に調整しています。つまり降板です。

 

 物語を引っ張る主人公に鋼音。障害・相手役に霞美。ツッコミ役・読者に近い感性を持ったキャラとして波音。鋼音といつも一緒にいても違和感がないよう、双子の設定に。うまく分析できていませんが「女性向けコンテンツは家族も描く」という方向性がありますね。ラノベには「親性の不在」というか、主人公やヒロインの直接の親が登場しない・深く言及されない傾向があるように思います。

 

 小説家はデザイナーでもあります。

 魅力や愛着のあるキャラクターだからといって、必ずしも全員出すのが最良なわけではありません。その作品の「面白さ」に貢献しないと判断できたなら、潔く降板させるのも、創作者の重要な仕事です。

 

 もちろん、長編化する際にはこれらのキャラも登場させて動いてもらうことで、エピソードを増やしたり、人間ドラマを深くしたりといった深化が可能になります。

 

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キャラの名前

 キャラクターの名前にもこだわっています。

「一文字でそれと分かる漢字」に「音が似ているもう一文字」を重ねる方式をよく使っています。初見では少々読みづらいものの、一度読めば記憶に残りやすい形式なのではないでしょうか。

 

「鋼(はがね)」と「音(ね)」を組み合わせて「鋼音(はがね)」。
「波(なみ)」と「音(おと)」を組み合わせて「波音(なおと)」。
「霞(かすみ)」と「美(み)」を組み合わせて「霞美(かすみ)」。
「桜(さくら)」と「良(ら)」を組み合わせて「桜良(さくら)」。

 

 タイトルが『野女と美獣』ですから、野女を象徴する鋼音には「野」、美獣を象徴する霞美には「美」と「白隈(地上最大の肉食獣)」を入れています。

 

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設定は「論より証拠」

 設定を伝える基本中の基本は、「論より証拠」「百聞は一見に如かず」です。「彼は怒りっぽい」と説明するのではなく、「怒っている彼」を描写することで伝えます。

 波音の台詞、

 

「子どもの頃に二、三日失踪したと思ったらヒグマに育てられてたねーちゃんが、今更なにやっても驚かないよね」 

 

 などがこれに当たります。冷静にツッコミをいれる波音や、冒頭・二話以降で暴力的な行動に出る霞美も同じです。エピソード記憶に呼びかけることで、キャラ設定を読者の印象に残りやすくします。 

 キャラに限らず、世界観の設定も同様です。「この世界には妖精がいる」と書くよりも、「妖精を描く」ことによってこそ、印象的に伝わります。

 設定の肝は「論より証拠」「百聞は一見に如かず」です。

 

親しみやすい文体

 キャラと共に、文体の話でもあります。

 エネルギッシュであっけらかんとした鋼音の思考とやりとりは、コメディ色を強めてくれています。霞美に辛い過去があることは決まっていたため、その情報が開示された際の落差を生むためにも機能しています。あれだけ明るい鋼音が落ち込んでこそ、ギャップが大きくなるというものです。

 

ストーリーについて

序破急

 構成は「序破急」です。破と急の間にミッドポイントを挟むことで、クライマックスへ至る流れを加速させています。

 1~3話で、物語の前提。お話を楽しむにあたっての前提、土台、ベースを提供しています。「こういう感じの面白さを提供して、この方向に進んでいきますので、よろしくね」です。挨拶のようなものです。もちろん、読んでいて楽しめるように書いて伝えます。家電の取扱説明書になってはいけません。

 

 配分としては、1~3話までが「序」。

 4~8話までが「破」(8話はミッドポイントとして独立しているとも捉えられます)。

 9~12話(最終話)までが「急」です(ここでも、11話は過去編のやや特殊な立ち位置)。

 

1行目から勝負をしかける

 冒頭の役割は「つかみ」です。アニメやYouTubeなど受動的に楽しめるエンタメが溢れている現代ですから、小説は冒頭で読者の心をつかまなければ、すぐに本を閉じられて(ブラウザバックされて)しまいます。それを防ぎ、「続きが気になる」と感じさせるための、最重要ポイントが冒頭です。

 理想は、1~3行目の時点で「面白い」と感じさせることです。1行目から勝負を仕掛けることをお勧めします。せめて3行目までには、「この小説でしか読めない1文」を喰らわせましょう。

 

 1行目を読んでくれた読者は、3行目まで読んでくれます。

 3行目まで読ませたなら、1ページまでは楽しませましょう。1ページ読んだ読者は3ページまでは期待できます。3ページから10ページ、30ページ、50、100……、と続きます。勝負は1行目から始まっています(厳密にはその前にタイトルとあらすじ、投稿サイトなどの知名度、更には作者の人柄や広告戦略も絡んでいますが)。

 冒頭の1行目と第10話の1行目では、まったく価値が異なります。気を抜いてはいけません。「この作品の1~3行目は、この言葉たちでしかあり得ない」と判断できるまでこだわり抜くべきポイントです。

 

『野女と美獣』では、「告白したら、ぶん殴られた」の1文目から勝負をかけています。人間は物事に整合性を求めるので、「告白した」と「ぶん殴られた」がどう繋がっているのか、その理由を求めます。因果関係が気になります。そのため、続きを読み進める原理動力になっています。

「疲れた顔で帰宅し、スーツを脱ぎながらため息をつく」といった日常的な冒頭シーンは、つかみとしては弱いと言えます。読者の誰もが日々体験している内容を(しかも、できればもう体験したくない地味な内容を)冒頭で描くのは悪手です。なんらかの意外性、引っかかり、フックが必要です。

 本作の冒頭では、日常ではなく非日常をまず魅せることで、つかみとしての機能を果たさせています。これが長編であれば「野山を駆け回る鋼音の見事な野生児っぷり」を魅せたのちに「転校生登場、一目惚れ」でも問題ないかもしれませんが、短編にはスピード感が求められます。なるべく無駄を削いで、テンポよく話を運んでいく必要があります。

 

  1行目の「告白したら、ぶん殴られた。」で惹きつける。続いて、起きた内容を描写する。誰についての話か、どんな面白さを提供する小説なのかを伝える。

 この冒頭を読んでも続きが気にならないなら、ブラウザバックしてもらって一向に構いません。ヒダマルの負けですから。

 

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ミステリーやサスペンスを取り入れる

「告白したら、ぶん殴られた。」という「結果」を先に出している点は、ミステリーの手法を応用しています。

 ここで言う「ミステリー」「サスペンス」とは、ジャンルではなく技術のことです。『野女と美獣』のジャンルは百合ラブコメですが、ミステリー技術は手法として様々な小説に取り入れることが可能です(というより、ミステリーやサスペンスを内包しない作品なんて存在し得ないのではないでしょうか)。

 

「冒頭に死体を転がす」のと同様に、「なぜ、鋼音はぶん殴られたのか?」が謎となって読者の興味を引っ張ります。「鋼音の恋は実るのか?」と並び、この作品の重要なクエスチョンです。

 また、恋愛ものでは(ミステリー、サスペンス、ホラーなども同じく)「相手の考えていることが分からない」が重要だと考えているため、一人称一択でした。また、鋼音の思考のみで間を持たせる必要もあるために、能動的なキャラクターを採用しています。

 

伏線、前フリ

 1行目から提示される謎「なぜ、告白したら殴られたのか?」の答えが、ミッドポイントの伏線として機能しています。「良かれと思って行っていたことが、実は相手を傷つけていた」の構造は、『とある魔術の禁書目録』一巻を参考にしています。

「最後に泣いたのなんていつ以来かガチで覚えてない」
「コンビニがないから来たんです」
「あぜ道を歩いたら、霞美を思い出すよ。夕焼けに目を細めて、霞美を思い出すよ。愛しい記憶が、どんどん増えていくんだよ。もっと、ずっと、彼女との思い出を作っていけますように。」

 などもすべて伏線、前フリです。霞美の生い立ちを知った後に思い返すことで、改めて切なさを理解することができます。

 

 また、ラストで波音の彼女やちくまろくんの話題をさらりと思い出させることで、ふたりの「これから」を想像させるように誘導しています。

 

勝利と敗北

 破と急の間(8話)にて、鋼音は霞美の秘密を知ります。

 その前段階では活躍し、ヒロインが見たがっていたキャンプファイヤーを実現して喜ばせ、ファーストキスまで果たしています。これは鋼音にとって「勝利」です。つまり、次のフェイズでは「敗北」が待っています。主人公の宿命と言えるでしょう。

 序破急の破と急の間にミッドポイント、物語の前提が覆されるような衝撃的な情報開示を置くのが好きで、よくこの構成を使っています。書籍化作品にも見られるものです。個人的に、起承転結よりもこの形の方が面白いと感じることが多いです。

 

クライマックス前の焦らし

 10話の前半に当たります。

 いよいよ終盤、クライマックスに入るぞという前段階では、焦らします。引き延ばします。主人公の心情をねっとり描いて、最高の舞台へ上がろうとする姿を描写します。相撲の仕切りのようなものです。事ここに至り、また徐々に緊張感を高めていきます。いよいよだ、という予感を匂い立たせるためです。

 感覚としては「ちょっとやりすぎ」なくらい、ねっとりじっくりと心理描写をしていい場面です。最後の最後にバネを縮めるイメージで、期待値を上げます。

 

キャラの過去は「後乗せサクサク」

 鋼音の一人称でやってきたところを、11話のみ霞美視点の三人称にしています。キャラの過去を最も効果的なタイミングで開示するには、クライマックス前~途中~後(エピローグ?)が有効だと考えているためです。基本的に、キャラクターの過去エピソードは興味を引かれません。読者が興味を持つのは、キャラの現在です。今ここにいるキャラを好きだからこそ、哀しい過去も知りたいと感じられます。小説や漫画の過去編ってだいたい、物語がかなり進んでからですよね。

  また、ここでは「三人称がいつの間にか一人称へシフトしている」方法も採っています。このあたり、割と自由に捉えています。作者が意識さえしていれば、意外と問題ありません。

 

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欠点について

「好きになる瞬間」がない

 これは弱点です。鋼音が霞美のことを「なぜ好きになったのか」「どのタイミングで、どのように恋に落ちたのか」この描写・エピソードがないため、説得力が弱くなっています。

 鋼音が霞美を好きである理由が「美しい」「一目惚れ」だけなので、読者には「そんなにボコボコ殴ってくるようなやつ、やめておけばいいのに」と思われる恐れがあります。正直、なかなか大きな問題です。

 

 恋に落ちた理由を明確にして、「そうした事情があるのなら納得できる」を感じてもらう必要があります。もちろん「論より証拠」、エピソードで伝える必要があります。長編化するとしたら、遅くとも半分までには「これこれこうした体験があって、そこで好きになった(気になり始めた)」という情報を開示すべきでしょう。クライマックスあたりでの開示も盛り上がりそうではありますが。

 

重要な情報開示方法が伝聞形式

「霞美には将来を誓った恋人がいたが、死んでしまった」は、作中最大の重要情報です。どこでどのように開示するかで、物語の印象は大きく変化するポイントです。これを「波音からの又聞き」で済ませてしまっている点が問題です。

 キャラ数からしてある程度必然ではあるものの、長編であればもっと的確なキャラの口から語られていたことと思います。具体的には、霞美のことをよく知っており、鋼音の罪を理解しているキャラの口から。中立・あるいは鋼音の味方である波音が伝えていることによって、鋼音の精神的なダメージが抑えられてしまっている側面があります。本来ならもっと落とせたのに……、と感じさせる、もったいない点です。

 

 本当は、霞美の幼馴染キャラと鋼音を対立させ、その中で発覚させることで大きな動揺・葛藤を生む予定でした。しかし、2万文字が目安の短編であったことからそれは断念。代わりに、波音にその役割を任せることにしました。

 ちなみに、波音の彼女の友達の「世界征服を目論む女子高生」は、他に妄想している作品の主人公です。誰得なクロスオーバーですが、個人的な遊び心です。

 

まとめ

 拙作『野女と美獣』の面白さの仕組みを解説してみました。自作の面白さを自分で腑分けするという奇行ですが、参考になればなによりです。 

 こうした情報を前提にして読んでみるのも一興かもしれません。『野女と美獣』、水野鋼音と白隈霞美の恋物語はこちらです。

『野女と美獣』(ヒダマル) | ノベルアップ+

 

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